男の武器

アイドルタレントや、クラスの女子を相手に頭のなかでシュミレーションしていたキスを、美由紀さんとしてる。

 

もっと深く唇を重ねあい、相手の口のなかに舌を入れてからめあったりするディープキスも、僕はシュミーレションしたことがある。

 

思い出すと同時に、それを実行していた。

 

腕を掴むと、美由紀さんの身体がビクッと反応する。

 

オトナの男になったつもりで、美由紀さんの身体を抱き寄せる。

 

シュミレーションどおりに、自然な感じに美由紀さんが僕に抱き寄せられてくれる。

 

遠慮を知らない僕の舌が、美由紀さんの唇のすきまからなかに入り込む。

 

舌と舌が触れ合った瞬間、僕の下半身は完全に目覚めた。

 

思考回路を下半身に乗っ取られた僕のシュミレーションは役立たずになった。

 

美由紀さんの唇を強く吸い、口のなかをめちゃくちゃにかきまわす。

 

力任せに抱きしめた身体に、下半身を押しつけた。

 

「ん……っ……」

 

鼻から洩れる美由紀さんの甘い声を聞いた僕の身体は暴走し始めていた。

 

もう、僕自身にも止められない。

 

誰にも止められないと思っていたのに、美由紀さんが僕を止めたんだ。

 

「あっ!」

 

僕は、思わず声を出していた。

 

美由紀さんの、唾液で濡れて光った唇が言葉を発する。

 

「すっごい、硬くなってるね」

 

美由紀さんがまた、淫らに微笑んだ。

 

「手、放してください」

 

「どうしてぇ?」

 

どうしてもこうしてもなかった。

 

男の武器であり最大の弱みでもある場所を握られてしまっては、どうしようもない。

 

「や、やめて、くださいよぉ」

 

身を捩って、掴まれた手から逃れようとする僕を見て、美由紀さんが笑う。

 

「うふっ……」

 

「笑いごとじゃないですってば!」

 

「こんなになってちゃ、電車に乗れないね」

 

「誰のせいですか!」

 

「責任とってあげよっか?」

 

「ブリーフなんだ」

 

「ボクサーブリーフです」

 

「へえ、そういうのがあるの?」

 

拓哉兄さんはトランクスなのかなあ。

 

僕の脳が、警告を発した。

 

美由紀さんは、拓哉兄さんの奥さんだぞ。

 

これ以上なにもするな。

 

今ならまだ引き返せる。

 

警告は、僕の下半身にまでは届かなかったらしい。